AIは不正会計を見抜けるのか|東芝からオルツまで開示に残った兆候

AIは不正会計を見抜けるのか|東芝からオルツまで開示に残った兆候

「積立」から「自分で選ぶ」へ──次のステップで待つ壁

NISAの積立から投資を始めて、しばらく経った。値動きにも慣れ、「もっと自分で銘柄を選んで、本格的に投資してみたい」──そんなふうに、投資への興味が一段深まってきた方も多いのではないでしょうか。

ところが、個別株に踏み込もうとすると、最初の壁にぶつかります。「この会社、本当に大丈夫なのか?」をどう見極めればいいのか。積立のように“おまかせ”ではいかず、自分で企業の中身、つまり財務諸表や有価証券報告書と向き合う必要が出てきます。

そして本格的に投資と向き合うほど、避けて通れないのが不正会計(粉飾決算)のリスクです。過去には、誰もが知る大企業が不正会計で株価を暴落させ、多くの投資家が損失を被ってきました。自分で選んだ一社が、もしそうだったら──。

この「見極め」という難題に、いま AI(人工知能) が本格的に挑み始めています。この記事では、まず会計不正とは何かをおさらいし、実際に起きた事例を振り返ったうえで、「AI×不正会計」がいま、どこまで来ているのかを、わかりやすく解説します。

そもそも「会計不正」とは

会計不正(粉飾決算)とは、会社が意図的に決算をよく見せる操作のことです。大きく分けると2つのタイプがあります。

  • 利益を大きく見せるタイプ:本当はそれほど儲かっていないのに、売上や利益を水増しする
  • 損失や借金を隠すタイプ:都合の悪い損失を、帳簿の外に“飛ばして”見えなくする

投資家にとって重要なのは、こうした不正が発覚する前から、開示書類に何らかの兆候を残しているケースが少なくないという点です。もちろん「必ず残る」わけではありませんし、兆候があっても不正がないことも多くあります。それでも、確認すべき箇所を知っているかどうかで、避けられる損失は変わります。

開示書類に現れる兆候の一覧

代表的な兆候を、どこに書かれるかとあわせて整理します。

兆候どこに書かれるか何を示すか重要度
監査意見の「限定付き適正」「不適正」「意見不表明」監査報告書監査法人が全面的にはお墨付きを出せないと判断した非常に高い
継続企業の前提に関する疑義注記事業を続けられるか不安がある状態非常に高い
修正再表示・訂正報告書の提出訂正報告書過去に公表した決算を後から訂正した高い
内部統制の「開示すべき重要な不備」内部統制報告書不正やミスを防ぐ社内の仕組みに重大な穴がある高い
第三者委員会・調査委員会の設置適時開示・臨時報告書問題がすでに表面化している高い
監査法人の交代臨時報告書・適時開示交代理由の説明が不十分な場合は注意中〜高
利益と営業キャッシュフローの乖離キャッシュフロー計算書帳簿上の利益に現金の裏付けがない中〜高
売上債権・棚卸資産の回転期間の悪化財務諸表・注記売上の水増しや在庫の抱え込みの可能性
関連当事者取引の増加注記取引の実態が外部から見えにくくなる
リスク記述の不自然な削除事業等のリスク前年まであった説明が消えている

重要なのは、単独ではなく複数が重なっているときほど危険度が高まるという点です。「継続企業の疑義」と「監査法人の交代」と「内部統制の不備」が同時に出ていれば、慎重になるべき局面です。

なお、これらの記載が有価証券報告書のどこにあるのかは、有価証券報告書の構成と読む順番で解説しています。

事例で振り返る──東芝・オリンパス・オルツ

東芝:「利益を大きく見せた」ケース

2015年に公表された東芝の不適切会計は、複数の事業部門で利益を実態より多く見せる会計処理が数年にわたって行われていたとされ、過年度決算の修正、第三者委員会による調査、課徴金、経営陣の辞任へと発展しました。

注目したいのは、発覚の前後にかけて「修正再表示」「内部統制の不備」といった、上の表に挙げた兆候が積み重なっていった点です。

オリンパス:「損失を隠した」ケース

2011年に公表されたオリンパスは「損失を隠す」タイプでした。過去の投資でふくらんだ含み損を、長年にわたって帳簿の外に飛ばし、企業買収の費用などに紛れ込ませて処理していたとされます。

きっかけは、不自然に高額な買収費用に疑問を持った当時の海外出身経営者の指摘でした。特定の数字ではなく、開示全体の“違和感”にサインが潜んでいた例といえます。

オルツ:指標に出にくい「循環取引」

より近い事例として、AI議事録サービスを手がけて上場したオルツの不正会計があります。2025年に不正が明らかになり、その後、元社長らが金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕される刑事事件に発展しました。同社は上場廃止となっています。

この事例が示す論点は、手口が「資金の循環取引」による決算の偽装だったとされる点です。報道によれば、売上債権や在庫の膨張といった、財務指標のスクリーニングで捉えやすい形には現れにくいものでした。

つまり、財務数値だけを機械的にチェックする手法では、この種の不正は素通りしてしまいます。数字の異常ではなく、開示された文章の書き方や説明のつじつまを読む必要がある——これは、後述するAIの使い方を考えるうえで決定的な論点です。

開示書類のどこを、どういう観点で読むのかについては、開示書類のどこを見てリスクを読むかで書類別に整理しています。

AIはどこまで来ているのか──研究が示した本当の結論

「AIが不正会計を見抜く」と聞くと、まだ遠い未来の話のように感じるかもしれません。しかし実際には、日本の開示データを使った本格的な研究が、すでに動いています。

日本発の挑戦「EDINET-Bench」

その代表例が、日本のAI研究企業 Sakana AI が公開した 「EDINET-Bench」 です。これは、AI(大規模言語モデル)が会計不正をどれだけ見抜けるかを測るための“試験問題集”のようなもの。国際的なトップ学会 ICLR2026 にも採択された、れっきとした最先端の研究です。

  • 金融庁の開示システム EDINET から、過去10年・約41,000件もの有価証券報告書を収集
  • 訂正報告書 約6,700件をもとに、不正・誤謬の事例を約600件抽出
  • そして、データも評価用のプログラムもすべてオープンに公開(誰でも検証できる)

人間が4万件の有報を読むのは不可能ですが、AIならそれを土俵にできる。この規模感こそ、AIの大きな強みです。

研究が示した結果と、その限界

まず押さえておきたいのは、この研究の結果が「AIなら見抜ける」という話ではなかったことです。

会計不正検知タスクでは、最先端のLLMでも古典的な機械学習モデル(ロジスティック回帰)と同程度の性能にとどまり、最も良い設定でもROC-AUCは0.7程度でした。0.5がランダム予測と同水準、1.0が完璧な予測を意味する指標なので、当てずっぽうより明確に良い一方、判断を任せられる水準ではありません。

研究側は、その理由にも踏み込んでいます。この評価では有価証券報告書ひとつから抽出できるデータのみがAIに与えられましたが、有報は企業の経済活動の要約に過ぎません。実際の監査業務にあたる会計士は、公開資料に加えて企業の内部情報を含む、はるかに広い情報にアクセスできます。「単一の書類だけを読んで不正を見抜く」という設定そのものが、本質的に難しいということです。

私たちが提供している開示チェックAIも、この「単一の書類を読み込む」タイプのツールです。この結論を踏まえてどう設計しているのかは、開示チェックAIが限界にどう向き合っているかで正直に解説しています。

そのうえで、前向きな示唆もあります。AIに与える情報や観点を増やすほど、不正を見抜く力が伸びていく──これがこの研究から見えてきた方向性です。ひとつの見方だけに頼るのではなく、多角的に情報と観点を与えるほど、AIは本領を発揮する。しかもこの分野は、オープンな研究として世界に開かれながら、日々進化を続けています。

AIの「良さ」を整理すると

事例と研究から見えてくる、不正会計分析におけるAIの強みは明確です。

  • 圧倒的な網羅性と速度:人間には不可能な量の開示書類を、高速に走査できる
  • 文章の“におい”を読む:数字だけでなく、注記や説明の言い回しの変化・トーンから違和感を捉える
  • 多角的なほど強い:さまざまな観点や文脈を組み合わせることで、精度が伸びていく
  • オープンで検証可能:EDINET-Benchのように研究が公開され、誰でも検証できる。“怪しいブラックボックス”ではなく、透明な科学の上に成り立っている

「AIは信用できない」という漠然とした不安は、こうした開かれた研究の積み重ねによって、少しずつ「正しく理解して使う道具」へと変わりつつあります。

「AI×不正会計」を、あなたの手の中に

ここまで見てきた「AIは多角的に分析するほど強い」という発見を、個人投資家がそのまま使える形にしたのが、私たちの開発する 開示チェックAI です。

開示チェックAIは、日本の有価証券報告書・米国の年次報告書(10-K)・暗号資産のホワイトペーパーのPDFを読み込み、研究が示した方向性を踏まえ、複数の角度からリスクを分析します。

  • 過去の不正データをもとにしたレッドフラグ(危険サインの言葉)の自動検出
  • 文脈まで読む生成AIによる読解
  • それらを束ねた総合的なリスクスコア(0〜1)の提示

しかも、判断のもとになった記述を本文からそのまま引用し、PDF上で色付きハイライト。「なぜそう判断したのか」がひと目でわかるので、ブラックボックスになりません。もちろんAIは「不正だ」と断定せず、あくまで投資判断を助ける“補助”として、疑いの強さを示すにとどめます。最終判断は、あなた自身の手に。

専門知識がなくても、気になる銘柄のリスクの兆候を、根拠つきで数十秒で見える化できます。まずは無料でお試しいただけ、しっかり分析したい方は月額940円で月50件までご利用いただけます。使い方や料金の詳細、データの取り扱いについては使い方・料金・セキュリティでまとめています。

東芝・オリンパス・オルツが示しているのは、兆候が開示に残っているケースが少なくないということ。その兆候を見つける新しい味方として、「AI×不正会計」をあなたの銘柄選びにも取り入れてみませんか。

まずは気になる銘柄で試してみましょう

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