自動車ディストリビューターの経営をDX|生産性向上とデータ経営
自動車ディストリビューターの経営をDX|生産性向上とデータ経営

自動車の流通には多くの企業が関わっています。自動車を生産する自動車メーカーと自動車メーカーに部品を供給する部品メーカーが自動車の生産を担う主要なプレーヤーです。そして、自動車メーカーで生産された車は最終消費者に届くまで、自動車を輸出する商社、輸入してディーラーに卸売するディストリビューター、最終消費者に販売するディーラーが存在します。
ここでは、自動車ディストリビューターが行う発注から販売までのパイプラインコントロールのDXによる生産性向上とデータ経営についてお伝えします。
目次
自動車ディストリビューターについて
自動車ディストリビューターは、自動車メーカーから各市場で1社もしくは複数社指定されます。その際の資本政策は様々です。自動車メーカーの完全子会社、子会社(自動車メーカー保有率51%以上)、持分法適用会社(同20%以上)、一般投資、資本参加なしと様々なパターンがあります。資本政策は、自動車メーカーの市場への参画度合いによるものだけではなく、法規や商習慣なども加味して決定されます。事業参画パートナーは、現地の有力財閥、自動車関連会社、官製企業、商社など様々です。
ここでは、そんな自動車ディストリビューターの機能とDXについて説明します。
パイプラインコントロール
自動車ディストリビューターの最も重要な機能のひとつは、発注から小売までの自動車パイプラインを管理することです。
徹底的に市場から情報を集めて、顧客の声を聞き、リードタイムを逆算して、適正な発注を心がけます。その際に、自動車メーカーの生産可能枠やイレギュラーなリードタイムを加味する必要があります。発注してからは、標準リードタイムのズレや販売状況の変化を見極めながら、過剰在庫・機会損失が発生しないように、現場を動かしていきます。
パイプラインコントロールに成功して、効率よく資金を回すことができれば安定的に大きな収益を稼ぎ出すことが可能です。
マーケティング・ブランディング
自動車は市場の社会情勢・気候・国民性・伝統など様々な要素で売れる車が異なります。自動車メーカーは、同一の車種に対しても市場ごとに異なるマーケティングとブランディングを行います。
自動車ディストリビューターは、担当市場にどのような車種を投入するか決める前に、どのようなブランドイメージで売り出していくか、どのような売り方がブランドに相応しいかを決めていきます。
また、ディーラーアポイントも重要な仕事であり、商品のブランドイメージと照らし合わせて、適切な立地・パートナーにディーラー権を付与します。
アフターセールスサービス
販売後の自動車の修理・整備は自動車ディーラーが担当するが、自動車ディストリビューターはディーラーへの整備指導、生産不具合やリコールの対応、補給部品の即納体制の構築に責任を持ちます。また、ワランティを活用した販促を企画することもあります。
現地組立
自動車ディストリビューターは自動車を完成車で輸入するだけではなく、ノックダウンパーツの輸入やこれに加えて現地調達部品で販売用の自動車を組み立てます。
完成車以外で輸入する背景として、完成車輸入に対して高い関税がかけられてノックダウン輸入による関税メリットがあることや人件費、ボリュームメリットなどを総合的に判断することが必要になります。
パイプラインコントロールの手法
上述の通り、パイプラインコントロールは自動車ディストリビューターの最も重要な機能です。効率的で安定的なパイプラインコントロールのために、自動車ディストリビューターは試行錯誤を繰り返し、現在では概ねどのブランド、どの地域でも共通する手法が確立されています。その管理手法で使用されるのは荷繰り表(※)と呼ばれるエクセルなどで作成される表です。荷繰り表では、自動車業界の時間軸に合わせて、月次で発注・生産・船積・現着・組立・卸売・小売の自動車のフローを管理します。また、それぞれのフロー間に滞留しているストックも記載します。荷繰り表で自動車のフロー・ストックの関係性を一覧できることで、過剰在庫・長期滞留在庫などの異常の検知、将来の販売動向に合わせた最適な発注、リードタイムの異常、シーズナリティ、資金繰りなど様々なことを読み取ることが可能となります。
※荷繰り表の他に“カーフロー”・“ランダウン”・“セールスストックレポート”など
自動車ディストリビューターの課題
自動車ディストリビューターの機能が定まっており、経営課題は、事業の多角化よりも、如何に効率的に販売を拡大させるかという既存事業のブラッシュアップがメインとなります。自動車ディストリビューターの長い歴史から人間にできることの多くは着手されています。一方で、デジタル分野の投資はかなり遅れています。未だに20年以上前に作成された荷繰り表を引き継いで、メール添付によるやり取りをしていることで、情報が分散・ガラパゴス化してしまうことがあります。販売やアフターセールスサービスの集客についてもデジタルの力で飛躍する余地は多分にあります。
自動車ディストリビューターのDX
自動車ディストリビューターは、事業の歴史が長く、変革を起こすことは非常に困難です。そのような競争環境の中、自社が変革の一歩を踏み出すことができれば、3年後・5年後に競合に大きな差をつけることが可能です。
自動車ディストリビューターのDXにおいて、組織の管理をデジタルで効率化することやマーケティングをデジタルの力を活用して潜在層にリーチすることは非常に有効な手段です。上述した荷繰り表の管理をデジタルの力でアップグレードする事が可能です。従来のエクセル管理だと表示方法の制限からグレード・オプション・カラーまで細分化することが困難でしたが、荷繰り表に適したUIでより詳細な管理が可能になります。また、パイプラインの情報をデータベース化することで、将来予測に活用することも可能になります。今後AIの活用がより簡単になるので、今のうちからデータを整備して、将来に役立てる準備をすることで、自動車ディストリビューターの経営に大きな効果をもたらすこととなります。
自動車は世界最大の産業であり、その流通に様々なプレーヤーが存在する中で、自動車ディストリビューターは市場の販売・在庫をコントロールする重要な役割を果たしています。自動車ディストリビューターが生産性向上とデータ経営のためにDXを推進することは、将来の競合優位性に繋がります。特に重要な、パイプラインコントロールのDXで、データベース構築・活用は経営に大きな効果をもたらすでしょう。
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この記事を書いた人

- 1983年7月8日生。2007年早稲田大学卒業。伊藤忠商事(株)に入社し、東南アジア・アフリカ向のトレード・事業投資・管理に従事。2013年、自動車メーカーに出向し、販売・アフターセールス部門GMを務める。2019年、common(株)を設立し、代表取締役 CEO就任。BCG, McKinsey, Accenture, NEC, Deloitteなどへの自動車ビジネスコンサルティング実績多数。米国公認会計士全科目合格。